コンテンツにスキップ
サイドバーの切り替え
検索
日本語
アカウント作成
個人用ツール
アカウント作成
ログイン
ログアウトした編集者のページ
もっと詳しく
トーク
投稿記録
案内
メインページ
人気のページ
利用規約
最近の出来事
最近の更新
おまかせ表示
お問い合わせ
ツール
リンク元
関連ページの更新状況
特別ページ
ページ情報
他言語版
「
危険な好奇心
」を編集中 (節単位)
ページ
議論
日本語
閲覧
編集
ソースを編集
履歴表示
その他
閲覧
編集
ソースを編集
履歴表示
警告:
ログインしていません。編集を行うと、あなたの IP アドレスが公開されます。
ログイン
または
アカウントを作成
すれば、あなたの編集はその利用者名とともに表示されるほか、その他の利点もあります。
スパム攻撃防止用のチェックです。 けっして、ここには、値の入力は
しない
でください!
==危険な好奇心3== 【携帯】連投できない人の怖い話 1投目【歓迎】<br> <br> '''156 :『ハッピー・タッチ』 ◆XhRvhH3v3M:2006/04/27(木) 04:50:46 ID:2G2sPLliO'''<br> 俺は山に入るのを躊躇した。<br> 『中年女』『変わり果てたハッピーとタッチ』『無数の釘』<br> 頭の中をグルグルと、鮮やかに『あの夜の出来事』が甦ってくる。<br> 俺は慎の様子を伺った。慎は黙って山を見つめていた。慎も恐いのだろう。<br> やっぱ、入るの恐いな・・・と言ってくれ!と俺は内心願っていた。<br> 慎はズボンのポケットからインスタントカメラを取り出し、右手に握ると、<br> 俺の期待を裏切り、「よし」と小さく呟き、山へ入るとすぐさま走りだした。<br> 俺はその後ろ姿に引っ張られるように走りだした。<br> 慎は振り返らずに走り続ける。<br> 俺は必死に慎を追った。一人になるのが恐かったから必死で追った。<br> 今思えば慎も恐かったのだろう。恐いからこそ、周りを見ずに走ったのだろう。<br> <br> あの場所が徐々に近づいてくる。<br> 思い出したくもないのに、あの夜の出来事を鮮明に思いだし、心に恐怖が広がりだした。<br> 恐怖で足がすくみだした時、あの場所に着いた。<br> そう、『中年女が釘を打っていた場所』『中年女がハッピー、タッチを殺した場所』『中年女に引きずり倒された場所』<br> 『中年女と出会ってしまった場所』<br> <br> <br> '''160 :『ハッピー・タッチ』 ◆XhRvhH3v3M:2006/04/27(木) 05:19:27 ID:2G2sPLliO'''<br> 俺は急に誰かに見られているような気がして、周りを見渡した。<br> いや、誰かにでは無い。中年女に見られているような気がした。<br> 山特有の静寂と、自分自身の心に広がった恐怖がシンクロし、足が震えだす。<br> 立ち止まる俺を気にかける様子無く、慎はあの木に近づきだした。<br> 何かに気付き、慎はしゃがみ込んだ。<br> 「ハッピー・・・」<br> その言葉に俺は足の震えを忘れ、慎の元に歩み寄った。<br> ハッピーは既に土の一部になりつつあった。頭蓋骨をあらわにし、その中心に少し錆びた釘が刺さったままだった。<br> 俺は釘を抜いてやろうとすると、慎が「待って!」と言い、写真を一枚撮った。<br> 慎の冷静さに少し驚いたが、何も言わず俺は再び釘を抜こうとした。<br> 頭蓋骨に突き刺さった釘をつまんだ瞬間、頭蓋骨の中から見たことの無い、多数の虫がザザッと一斉に出てきた。<br> 「うわっ!」<br> 俺は慌てて手を引っ込め、立ち上がった。<br> ウジャウジャと湧いている小さな虫が怖く、ハッピーの死体に近づく事が出来なくなった。<br> それどころか、吐き気が襲って来てえずいた。<br> 慎は何も言わずに背中を摩ってくれた。<br> 俺はあの夜ハッピーを見殺しにし、またハッピーを見殺しにした。<br> 俺は最高に弱く、最低な人間だ。<br> <br> <br> '''161 :『ハッピー・タッチ』 ◆XhRvhH3v3M:2006/04/27(木) 05:39:52 ID:2G2sPLliO'''<br> 慎はカメラを再び構え、あの木を撮ろうとしていた。<br> 「ん?!おい!ちょっと来てーや!」<br> 何かを発見し、俺を呼ぶ慎。俺は恐る恐る慎の元に歩み寄った。<br> 慎が「これ、この前無かったよな?」と、何かを指差す。<br> その先に視線をやると、無数に釘の刺さった写真が・・・<br> ん?たしか前もあったはずじゃ・・・<br> いや!写真が違う!<br> 厳密に言うと、この前見た4・5歳ぐらいの女の子の写真はその横にある。<br> つまり、写真が増えている!<br> 写真の状態からして、ここ2・3日ぐらいに打ち込まれているであろう。<br> この前に見た写真は、既に女の子かどうかもわからないぐらいに、雨風で表面がボロボロになっている。<br> 新しい写真も、4、5歳ぐらいの女の子のようだ。<br> この時は慎に言わなかったが、俺は一瞬、新しい写真が俺だったらどうしよう!!とドキドキしていた。<br> 慎はカメラに、その打ち込まれた写真を撮った。<br> そして、「後は秘密基地の彫り込みを撮ろう」と言い、又走りだした。<br> 俺は近くに中年女がいるような錯覚がし、一人になるのが怖く、慌てて慎を追った。<br> <br> <br> '''163 :『ハッピー・タッチ』 ◆XhRvhH3v3M:2006/04/27(木) 06:07:52 ID:2G2sPLliO'''<br> 秘密基地に近いてきて、俺は違和感を感じ、「慎!」と呼び止めた。<br> 違和感。<br> いつもなら、秘密基地の屋根が見える位置にいるはずなのだが、屋根が見えない。<br> 慎もすぐに気付いたようだ。<br> このとき、脳裏に『中年女』がよぎった。<br> 胸騒ぎがする。鼓動が激しくなる。<br> <br> 慎が「裏道から行こう」と言った。俺は無言で頷いた。<br> 裏道とは、獣道を通って秘密基地に行く、従来のルートとは別に、<br> 茂みの中をくぐりながら、秘密基地の裏側に到達するルートの事である。<br> この道は、万が一秘密基地に敵が襲って来た時の為に造っておいた道。<br> もちろん、遊びで造っていたのだが、まさかこんな形で役に立つとは・・・<br> この道なら万が一基地に『中年女』がいても、見つかる可能性は極めて低い。<br> 俺と慎は四つん這いになり、茂みの中のトンネルを少しずつ進んだ。<br> <br> そして秘密基地の裏側約5M程の位置にさしかかった時、基地の異変の理由が分かった。<br> バラバラに壊されている。<br> 俺達が造り上げた秘密基地は、ただの材木になっていた。<br> しばらく様子を伺ったが、中年女の気配もないので俺達は茂みから抜けだし、秘密基地の跡地に到達した。<br> <br> <br> '''181 『ハッピー・タッチ』 ◆XhRvhH3v3M:2006/04/27(木) 16:32:42 ID:2G2sPLliO'''<br> 俺達はバラバラに崩壊された秘密基地を見て、少し泣きそうになった。<br> 秘密基地は言わば、俺達三人と2匹のもう一つの家。<br> バラバラになった材木の片隅に、大きな石が落ちていた。恐らく誰かが、これをぶつけて壊したのだろう。<br> 誰かが?・・いや、多分『中年女』が・・・。<br> <br> 慎が無言で写真を撮りだした。<br> そして数枚の材木をめくり、『淳呪殺』と彫られた板を表にし、写真を撮った。<br> その時、わずかな板の隙間からハエが飛び出し、その隙間からタッチの遺体が見えた。<br> ハッピーとタッチ。<br> 秘密基地よりもかけがえの無い2匹を、俺達は失った事を痛感した。<br> <br> 慎は立ち上がり、「よし、このカメラを早く現像して、警察に持って行こう」と言った。<br> 俺達は山を駆け降りた。<br> 山を降り、俺達は駅前の交番へ急いだ。<br> このカメラに納められた写真を見せれば、中年女は捕まる。俺らは助かる。<br> その一心だけで走った。<br> <br> 途中でカメラ屋に寄り、現像を依頼。<br> 出来上がりは30分後と言われたので、俺達は店内で待たせてもらった。<br> その間、慎との会話はほとんど無かった。ただただ 写真の出来上がりが待ち遠しかった。<br> <br> そして30分が過ぎた。<br> <br> <br> '''190 :『ハッピー・タッチ』 ◆XhRvhH3v3M:2006/04/27(木) 22:54:20 ID:2G2sPLliO'''<br> 「お待たせしましたー」<br> バイトらしき女店員に声をかけられた。<br> 俺と慎は待ってましたとばかりにレジに向かった。<br> 女店員は少し不可解な顔をしながら、<br> 「現像出来ましたので、中の確認をよろしくお願いします」といいながら、写真の入った封筒を差し出した。<br> まぁ現像後の写真が、犬の死骸や釘に刺された少女の写真のみだから、不可解な顔をするのも当然だが・・・<br> 慎はその場で封筒から写真を取り出し、すべての写真を確認し、<br> 「大丈夫です。ありがとうございました」と言い、代金を支払った。<br> 店を出て、すぐさま交番へ向かった。<br> <br> これで全てが終わる。<br> 駅前の交番へ二人して飛び込んだ。<br> 「ん?!どうしたの?」<br> 中にいた若い警官が、笑顔で俺達を迎えてくれた。<br> 俺達はその警官の元に歩み寄り、「助けてください!」と言った。<br> <br> 俺と慎は、あの夜の出来事を話した。裏付ける写真も一枚一枚見せながら話した。<br> そして、今も『中年女』に狙われている事を。<br> <br> 一通り話し終わると、その警官は穏やかな表情で「お父さんやお母さんに言ったの?」<br> 俺たちは親には伝えてないと言うと、<br> 「ん~んぢゃ、家の電話番号教えてくれるかな?」と警官は言い出した。<br> <br> <br> '''286 :『ハッピー・タッチ』 ◆XhRvhH3v3M:2006/04/30(日) 01:58:44 ID:Ey4nh9XjO'''<br> 慎が「なんで親が関係あるの?狙われているのは俺達だよ?!」とキレ気味に言い放った。<br> ちなみに慎の両親は医者と看護婦。高校生の兄貴は某有名私立高校生。<br> 俺達3人の中で一番裕福な家庭だが、一番厳しい家庭でもある。<br> あの夜は親に嘘をついて秘密基地に行き、このような事に巻き込まれたとバレれば、<br> 俺や淳もだが、慎が一番洒落にならないのである。<br> 「助けてよ!警察官でしょ!!」と慎が詰め寄る。<br> 警官は少し苦笑いして、<br> 「君達小学生だよね?やっぱり、こーゆー事はキチンと親に言わなきゃダメだよ」<br> と、しばらくイタチゴッコが続いた。<br> あげくに警官は、「じゃあ君達の担任の先生は何て名前?」など、俺達にとっては脅しに取れる言葉を投げ掛けてきた。<br> まぁ警官にとっては、俺達の保護者及び責任者から話を聞かないと・・・って感じだったのだろうが、<br> 俺達にとって、こういう時の親や先生は、怒られる対象にしか考えられなかった。<br> そうこうしているうちに、俺達の心の中に、目の前にいる警官に対して不信感が芽生えてきた。<br> このまま此処にいれば、無理矢理住所を言わされ、親にチクられる!と。<br> <br> <br> '''290 :『ハッピー・タッチ』 ◆XhRvhH3v3M:2006/04/30(日) 02:31:44 ID:Ey4nh9XjO'''<br> この警官は、俺達の話を信じてくれてないのでは?と俺は思い始めた。<br> 俺や慎が必死に助けを求めているのに、『親』『先生』ばかり言ってくる。<br> 俺達は『中年女』の存在を裏付ける、証拠写真まで持参しているのに・・・<br> 俺はもう一度警官に写真を見せつけ、「犬をこんな殺し方する奴なんだよ!」と言った。<br> すると警官はしばらく黙り込み、写真を手に取り、意外な一言を言った。<br> 「ん~・・・これって犬?なの?」<br> 「は?」と俺と慎は驚いた。この人は何を言っているんだろう!と。<br> 続けて警官は、「いや、君達を信じていない訳じゃないよ。じゃあもう少し詳しく教えて。ここが頭?」<br> 警官は冗談を言っている訳では無く、本当に分からないようだ。<br> 俺はハッピーの写真を取上げ、「だから・・・」と説明しかけて言葉が詰まった。<br> 確かにこの写真を客観的に見ると、犬の死骸には見えないかも・・・と思った。<br> 薄茶色に変色した骨に、所々わずかに残っている毛。<br> 俺と慎は、ハッピーが死体になった翌日にも見ているので、<br> 腐食が進んでいても元の形(倒れていた角度、姿)を知っているが、<br> 知らない奴が見ると、ただの汚れた石に汚い雑巾の様なものが、絡んでいるようにしか見えないかも知れない。<br> <br> <br> '''291 :『ハッピー・タッチ』 ◆XhRvhH3v3M:2006/04/30(日) 02:56:37 ID:Ey4nh9XjO'''<br> 俺は冷静に他の写真も見てみた。<br> 板に刻まれた『淳呪殺』、少女の写真に無数の『釘』。<br> たしかに、『中年女』の存在に直接結び付けるのは難しいのか?<br> ひょっとして警官は、小学生の悪戯と思っていて、先程から『親』『担任』などと言っているのか?<br> 俺はこのまま此処にいては<br><br> だと感じ出した。<br> 「絶対、親を呼び出すつもりだ!」<br> 俺は慎に小さな声で耳打ちした。<br> 慎は無言で頷き、アゴをクイッと動かし、外に出る合図を送ってきた。<br> すると次の瞬間、慎は勢いよく振り向き走りだした。<br> 俺もすぐさま後を追い、交番から抜け出した。<br> 後ろから「おいっ!」と警官が呼び止める声がしたが、俺達は振り向かずに走り続けた。<br> <br> 警官が追い掛けてくる気配は無かった。<br> 警官はおそらく、悪戯しにきた小学生が、嘘を見破られそうになり逃げ出した。とでも思っているのだろう。<br> <br> <br> '''352 :ハッピー・タッチ ◆XhRvhH3v3M:2006/05/01(月) 09:22:18 ID:jZMGGFeIO'''<br> 俺と慎は、警官が追って来ていないことを充分に確認し、道端に座り込み、緊急ミーティングを開催した。<br> 「これからどーする?」<br> 「どーしよ・・・」<br> 俺達は途方に暮れていた。最後の切り札の警察にも信じてもらえず、『中年女』から身を守る術を失った。<br> これで全てが解決すると俺達は思い込んでいただけに、ショックはデカかった。<br> 「このままだったら中年女に住所バレて・・・」<br> 俺は恐かった。<br> すると慎が、「しばらくあの女には出くわさないように注意して・・・」と言いかけたが、<br> 俺はすぐに「もう無理だよ!淳の学年とクラスがバレてる時点で、すぐに俺らもバレるに決まってる!」と少し声を荒げた。<br> 「でも、あの女・・・俺達に何かする気あるのかな?」<br> 「?」<br> 慎が言いだした。<br> 「だってこの前俺ら、学校帰りにあの女に出会ったじゃん。<br> もし何かするつもりなら、あの時でも良かった訳じゃん」<br> 「・・・」<br> 慎が続けて、<br> 「それに山・・・もし俺らのことを許してないなら、山に何らかの呪い彫りとかあってもいーはずじゃん」<br> 「・・・」<br> たしかに。山に行った時、新しい俺達に対する呪い的な物は無かった。<br> 秘密基地は壊されていたが・・・<br> 新しい女の子の釘刺し写真はあったが、俺達・・・まして、フルネームがバレている淳の呪い彫りも無かった。<br> <br> <br> '''355 :『ハッピー・タッチ』 ◆XhRvhH3v3M:2006/05/01(月) 09:38:55 ID:jZMGGFeIO'''<br> 俺は内心、そーなのかな?と反論したかったが、しなかった。<br> 慎の言う通り、実は俺達が思っている程『中年女』は俺達の事を怨んでいない、忘れかけている。と思いたかった。<br> 慎はもう一度、「俺らを本気で怨んでいるなら、何らかのアクションを起こすはずだろ?」<br> と、まるで俺を安心さすかのように言った。<br> そして、<br> 「学校の近くをウロついてるのも、俺らを捜してるんぢゃなく、写真の女の子を捜してる可能性もあるだろ?」<br> と言葉を続けた。<br> 「そーか・・・」<br> 俺はその慎の言葉を聞いて、少し気持ちが楽になった感じがした。<br> と言うか、慎の言った言葉を自分自身に言い聞かせ、自分自身を無理矢理納得させようとした。<br> それは現実逃避に近いかもしれない。<br> 慎自身もそうだったのかも知れない。もう『中年女』から逃げる術が見つからず、言ったのかも知れない。<br> しかし俺は、俺達は、<br> 「そーだよな!そのうち俺らのことなんて忘れよる!」<br> 「もう忘れとるって!」<br> 「なんだよチクショー!ビビって損した!」<br> 「ほんま、あの女、泣かしたろか!」<br> とお互い強がって見せた。<br> ある意味、やけくそに近いかもしれない。<br> <br> <br> '''363 :ハッピー・タッチ ◆XhRvhH3v3M:2006/05/01(月) 13:47:06 ID:jZMGGFeIO'''<br> しばらくその場で、慎と『中年女』の悪口などを談笑していた。<br> 辺りは薄暗くなり始め、俺達は帰宅することにした。<br> <br> 慎と別れる道に差し掛かって、<br> 「明日の帰り、淳の様子見に行こっか!」<br> 「おう!そやな!」<br> とお互い明るく振る舞って、手を振り別れた。<br> 俺の心は少し晴れやかになっていた。<br> そーだよな・・・慎の言う通り、中年女はもう俺達の事なんて忘れてるよな・・・と。<br> まるで自己暗示のように、繰り返し言い聞かせた。<br> 足取りも軽く、石を蹴りながら家に向かった。<br> 空を見上げると雲も無く、無数の星がキラキラ輝き、とても清々しい夜空だった。<br> 今まで『中年女』の事でウジウジ悩んでいたのが、馬鹿らしく思えた。<br> <br> 自宅に近づき、その日は見たいアニメがあるのに気付き、俺は小走りで家に向かった。<br> タッタッタッタッ・・・<br> 夜の町内に俺の足跡が響く。<br> タッタッタッタ・・・<br> 静かな夜だった。<br> タッタッタッタッ・・・<br> ん?<br> タッタッタッタ・・・<br> 俺の足音以外に違う足音が聞こえる。<br> 後ろを振り向いた。<br> 暗くて見えないが誰もいない。気のせいか。<br> ナンダカンダ言って俺は小心者だな、と思いながら再び走った。<br> <br> タッタッタッタッ・・・<br> タッタッタッタ・・・<br> ん?誰かいる。<br> <br> <br> '''365 :ハッピー・タッチ ◆XhRvhH3v3M:2006/05/01(月) 14:06:24 ID:jZMGGFeIO'''<br> 俺はもう一度立ち止まり、目を凝らして後ろを眺めた。<br> ・・・やっぱり誰もいない。<br> 確かに俺の足音にマジって、後ろから誰かが走ってくる足音が聞こえたのだが?<br> 俺も淳のように、自分でも気付かないうちに、精神的に『中年女』追い詰められているのか?<br> ビビり過ぎているのか?<br> しばらく立ち止まり、ずーっと後ろを眺めた。<br> ドックンドックン鼓動を打っていた心臓が、一瞬止まりかけた。<br> 15M程後方、民家の玄関先に停めてある原付きバイクの陰に、誰かがしゃがんでいる。<br> いや、隠れている。<br> 月明かりでハッキリ黙視できないが、一つだけハッキリと見えたものがある。<br> コートを着ている!<br> しばらく俺は固まった。<br> 隠れている奴は、俺に見つかっていないと思っているようだが、シルエットがハッキリ見える!<br> 俺は一瞬混乱した。<br> 中年女だ!中年女だ!中年女だ!中年女!中年女!<br> 腰が抜けそうになったが、本能だろうか、次の瞬間、<br> 逃げなきゃ!逃げなきゃ!逃げなきゃ!逃げなきゃ!逃げなきゃ!逃げなきゃ逃げなきゃ!<br> と、もう一人の俺が俺に命令する。<br> 俺は思いッキリ走った!運動会の時より必死に走った。風を切る音以外聞こえない程、無呼吸で走った。<br> <br> <br> '''413 :『ハッピー・タッチ』 ◆XhRvhH3v3M:2006/05/02(火) 17:47:42 ID:VN7lh4fvO'''<br> 無我夢中で家に向かって走った。<br> 家まであと10M。<br> よし!逃げ切れる!<br> !<br> 一瞬、頭にあることがよぎった。<br> このまま家に逃げ込めば、間違いなく家がバレる!<br> 俺はとっさに自宅前を通過し、そのまま住宅街の細い路地を走り続けた。<br> 当てもなく、ただ俺の後方を着いて来ているであろう『中年女』を巻く為に・・・<br> <br> 5分ほど、でたらめな道を走り続けた。<br> さすがに息がキレて来て歩きだし、後ろを振り向いた。<br> もう、『中年女』らしき人影も足音も聞こえて来ない。<br> 俺は周囲を警戒しつつ、自宅方面へ歩き始めた。<br> <br> 再び自宅の10M程手前に差し掛かり、俺はもう一度周囲を警戒し、玄関にダッシュした。<br> 両親が共働きで鍵っ子だった俺は、すばやく玄関の鍵を開け 中に入り、すばやく施錠した。<br> 「フぅー・・・」<br> 安堵感で自然とため息が出た。<br> とりあえず慎に報告しなければと思い、部屋に上がろうと靴を脱ごうとした時、玄関先で物音がした。<br> !?<br> 俺は靴を脱ぐ体制のまま固まり、玄関扉を凝視した。<br> 俺の家の玄関は、曇りガラスにアルミ冊子がしてある引き戸タイプなのだが、曇りガラスの向こう側に・・・<br> 玄関先に誰かが立っている影が映っていた。<br> <br> <br> '''451 :『ハッピー・タッチ』 ◆XhRvhH3v3M:2006/05/03(水) 08:46:27 ID:FVrpBt6MO'''<br> 玄関扉を挟んで1M程の距離に『中年女』がいる!<br> 俺は息を止め、動きを止め、気配を消した。<br> いや、むしろ身動き出来なかった。<br> まるで金縛り状態・・・蛇に睨まれた蛙とは、このような状態の事を言うのだろう。<br> 曇り硝子越しに見える『中年女』の影を、ただ見つめるしか出来なかった。<br> <br> しばらく『中年女』は、じっと玄関越しに立っていた。微動すらせず。<br> ここに俺がいることがわかっているのだろうか?<br> その時、硝子越しに、『中年女』の左腕がゆっくりと動き出した。<br> そして、ゆっくりと扉の取手部分に伸びていき、キシッ!と扉が軋んだ。<br> 俺の鼓動は、生まれて始めてといっていいほどスピードを上げた。<br> 『中年女』は扉が施錠されている事を確認すると、ゆっくりと左腕を戻し、再びその場に留まっていた。<br> 俺は依然、硬直状態。<br> すると『中年女』は、玄関扉に更に近づき、その場にしゃがみ込んだ。<br> そして、硝子に左耳をピッタリと付けた。<br> 室内の様子を伺っている!<br> 目の前の曇り硝子に、『中年女』の耳が鮮明に映った。<br> もう俺は緊張のあまり吐きそうだった。鼓動はピークに達し、心臓が破裂しそうになった。<br> 『中年女』に鼓動音がバレる!と思う程だった。<br> <br> <br> '''457 :『ハッピー・タッチ』 ◆XhRvhH3v3M:2006/05/03(水) 09:18:17 ID:FVrpBt6MO'''<br> 『中年女』は二、三分間、扉に耳を当てがうと再び立ち上がり、<br> こちら側を向いたまま、ゆっくりと一歩ずつ後ろにさがって行った。<br> 少しづつ硝子に映る『中年女』の影が薄れ、やがて消えた。<br> 「行ったのか・・・?」<br> 俺は全く安堵出来なかった。<br> 何故なら、『中年女』は去ったのか?<br> 俺がここ(玄関)にいることを知っていたのか?<br> まだ家の周りをうろついているのか?<br> もし、『中年女』に俺がこの家に入る姿を見られていて、<br> 俺の存在を確信した上で、さっきの行動を取っていたのだとしたら、<br> 間違いなく『中年女』は、家の周囲にいるだろう。<br> 俺はゆっくりと、細心の注意を払いながら靴を脱ぎ、居間に移動した。<br> <br> 一切、部屋の明かりは点けない。明かりを燈せば、俺の存在を知らせることになりかねない。<br> 俺は居間に入ると真っ直ぐに電話の受話器を持ち、手探りで暗記している慎の家に電話をかけた。<br> 3コールで慎本人が出た。<br> 「慎か?!やばい!来た!中年女が来た!バレた!バレたんだ!」<br> 俺は小声で焦りながら慎に伝えた。<br> 『え?どーした?何があった?』と慎。<br> 「家に中年女が来た!早く何とかして!」<br> 俺は慎にすがった。<br> <br> <br> '''546 :『ハッピー・タッチ』 ◆XhRvhH3v3M:2006/05/05(金) 05:04:28 ID:8b48b6KiO'''<br> 『落ち着け!家に誰もいないのか?』<br> 「いない!早く助けて」<br> 『とりあえず、戸締まり確認しろ!中年女は今どこにいる?』<br> 「わからない!でも家の前までさっきいたんだ!」<br> 『パニクるな!とりあえず戸締まり確認だ!いいな!』<br> 「わかった!戸締まり見てくるから早く来てくれ!」<br> <br> 俺は電話を切ると、戸締りを確認しにまずは便所に向かった。<br> もちろん家の電気は一切つけず、五感を研ぎ澄まし、暗い家内を壁づたいに便所に向かった。<br> まずは便所の窓を、そっと音を立てず閉めた。<br> 次は隣の風呂。<br> 風呂の窓もゆっくり閉め、鍵をかけた。<br> そして風呂を出て、縁側の窓を確認に向かった。<br> 廊下を壁づたいに歩き、縁側のある和室に入った。<br> 縁側の窓を見て違和感を覚えた。<br> いや、いつもと変わらず窓は閉まって、レースのカーテンをしてあるのだが、左端・・・人影が映っている。<br> 誰かが外から窓に顔を付け、双眼鏡を覗くように両手を目の周辺に付け、室内を覗いている。<br> 家の中は電気をつけていない為、外の方が明るく、こちらからはその姿が丸見えだった。<br> 窓に『中年女』が、ヤモリの如く張り付いている。<br> 俺は腰が抜けそうになった。<br> <br> <br> '''548 :『ハッピー・タッチ』 ◆XhRvhH3v3M:2006/05/05(金) 05:31:11 ID:8b48b6KiO'''<br> これは動物の本能なのだろうか?<br> 肉食獣を見つけた草食動物のように、俺はとっさにしゃがみ込んだ。<br> 全身が無意識に震えていた。<br> 『中年女』からこちらは見えているのか?<br> 『中年女』はしばらく室内を覗き、そのままの体勢で、ゆっくりと窓の中心まで移動して来た。<br> そしてキュルキュルキュルと、嫌な音が窓からしてきた。<br> 『中年女』の右手が窓を擦っている。左手は依然、目元にあり、室内を覗きながら。<br> キュルキュルキュル<br> 嫌な音は続く。俺の恐怖心はピークに達した。<br> 何かわからないが、『中年女』の奇行に恐怖し、その恐怖のあまり、声を出す事すら出来なかった。<br> すると『中年女』は後ろを振り返り、凄い勢いで走り去って行った。<br> 俺は何が起きたかわからず、身動きも出来ずに、ただ窓を見ていた。<br> すると窓の向こうの道路に、赤い光がチカチカしているのが見えた。<br> 「警察が来たんだ!」<br> 俺は状況が飲み込めた。<br> 偶然通りかかったパトカーに気付き、『中年女』は逃げて行ったんだと。<br> <br> しばらく俺はしゃがみ込んだまま震えていた。<br> プルルルルル!<br> その時、電話が突然鳴った。もう心臓が止まりかけた。<br> ディスプレイを見ると、慎の自宅からの電話だった。<br> <br> <br> '''551 :『ハッピー・タッチ』 ◆XhRvhH3v3M:2006/05/05(金) 05:47:22 ID:8b48b6KiO'''<br> 俺は慌てて電話に出た。<br> 『どう?』<br> 「なんか部屋覗いとったけど、どっか行った・・・」<br> 『そっか、親帰って来たんか?』<br> 「いや、たまたまパトカー通って、それにビビって中年女逃げたんや思う」<br> 『そーなんや!良かった。俺、お前んちの近くに不審者がいるって、通報しといてん。<br> でも、あいつに家バレたんやったら、そろそろ親にも相談しなあかんかもな・・・』<br> 「・・・」<br> 『俺も今日、親に言うから・・・お前も言えよ!もうヤバイよ!』<br> 「・・・うん・・・」<br> そして電話を切った。<br> <br> その30分後、母親がパートから帰って来た。<br> 俺は部屋の電気を消したまま玄関に走り、母の顔を見た瞬間、安堵感からか泣き出した。<br> 母親はキョトンとしていたが、俺はしばらく泣き続けた後、<br> 「ごめんなさい」と冒頭に謝罪をし、『あの夜』の出来事から、さっきの出来事まで説明した。<br> 説明の途中に父親も帰宅し、父には母が説明した。<br> <br> その後、父が無言で和室の窓硝子を見に行った。<br> 窓硝子は、鋭利な何かで凄い傷が付けられていた。<br> 鋭利な何かが五寸釘だと、直感でわかった。<br> 両親は俺を叱らず、母親は俺を抱きしめてくれ、父は警察に電話をかけていた。<br> <br> <br> '''679 :『ハッピー・タッチ』 ◆XhRvhH3v3M:2006/05/06(土) 02:25:17 ID:BiI+Rh5RO'''<br> 10分程してから警察が来た。<br> 警察には父が事情を説明していた。<br> 俺は母親と居間にいたが、少ししてから警官が居間に来て、あの夜の事を聞いてきた。<br> ハッピーとタッチの事、木に釘で刺された少女の写真の事、淳の名前が秘密基地に彫られていたこと・・・<br> その後、放課後に出会った事など、『中年女』に係わる全ての事を話した。<br> そして、さっきの出来事も。<br> 鑑識らしき人も来ていて、俺が話している間に窓の指紋を採取していた。<br> 俺が話した内容で、警官がもっとも詳しく聞いてきたことが、少女の写真の事だった。<br> その少女の容姿や面識の有無等聞かれたが、それについては「よく分からない」と答えるしかなかった。<br> そして裏山の地図を書かされ、翌日、警察が調べに行くと言う事になり、<br> 自宅周辺の夜間パトロール強化を約束して、警察官は帰っていった。<br> 結局、指紋は出なかった。<br> <br> しばらくして、慎と淳の親から電話がかかってきた。<br> 親同士で何やら話していたが、『中年女』に関する話というより、学校にどのように説明するかを話していたようだ。<br> <br> <br> '''686 :『ハッピー・タッチ』 ◆XhRvhH3v3M:2006/05/06(土) 02:56:49 ID:BiI+Rh5RO'''<br> その夜、俺は何年かぶりに両親と共に寝た。<br> 恥ずかしさなど微塵も無く、純粋に『中年女』が怖く、なかなか寝付け無かった。<br> <br> 次の日の朝、母親に起こされた時には、すでに午前8時を回っていた。<br> 「遅刻する!」と慌てると、母が「今日は家で寝てなさい」と言う。<br> どうやら既に学校に事情を話したらしい。<br> 父はすでに出社していたが、母はパートを休んでいた。<br> 慎や淳も今日は学校を休んでいるだろう・・・と思ったが、あえて電話はしなかった。<br> 慎は恐らく、厳格な両親に怒られている。<br> 淳の両親は、不登校になった淳の真実を知りショックを受けている。<br> と思うと、電話するのが恐かったから。<br> <br> 俺は自室に篭り、『中年女』が早く警察に捕まることだけを願っていた。<br> 一時も早く、追い詰められる恐怖から解放されたかった。<br> 母親は何故か、『中年女』の事を口にしてこなかった。<br> 俺への気配り?と思い、俺も何も言わなかった。<br> <br> 昼飯を食べ、ふたたび自室に篭っていると、ドスっと家の外壁に鈍い音が響いた。<br> 俺はとっさに、慎だ!と思った。<br> あいつは俺を呼び出す時、玄関の呼鈴を鳴らさず、窓に小石を投げてくる事がしばしばあったからだ。<br> <br> <br> '''688 :『ハッピー・タッチ』 ◆XhRvhH3v3M:2006/05/06(土) 03:14:45 ID:BiI+Rh5RO'''<br> 俺は窓から外を眺めた。<br> 家の前の路地にある電柱に慎がいるはず!と思ったが、慎の姿は無かった。<br> どこかに隠れているのかと思い、見える範囲で捜したが何処にもいない。<br> その時、俺の部屋の下にあたる庭先から、「キャ!」と母親の声がした。<br> びっくりして窓を開け、身を乗り出して下を見た。<br> そこには母親が、地面を見つめながら口元に手を当てがい、何かを見て驚いていた。<br> 俺は何が起こっているのか分からず、「どーしたの!」と聞いた。<br> 母は俺の声にギクッと反応し、こちらを見上げ、驚いた表情で無言のまま家の外壁を指差した。<br> 俺は良からぬ感じを察したが、母の指差す方向を見た。<br> そこには何やら、ドロっとした紫色した液体と、ゼリー状の物が付いていた。<br> 先程のドスっの音の正体であろう。<br> 視線を母の足元に落とし、その何かを捜した。<br> そこには、内蔵が飛び出た大きな牛蛙の死体が落ちていた。<br> 母はしばらく呆然と立ち尽くしていた。<br> 俺はすぐに『中年女』が頭に浮かんだ。<br> すぐに目で『中年女』の姿を捜したが、何処にも姿は見えなかった。<br> 母はふと思い出したように居間に駆け込み、警察に電話をした。<br> <br> <br> '''690 :『ハッピー・タッチ』 ◆XhRvhH3v3M:2006/05/06(土) 04:34:37 ID:BiI+Rh5RO'''<br> 母は青い顔をしていた。恐らくこの時始めて、『中年女』の異常性を知ったのだろう。<br> そうだ、あの女は異常なんだ。<br> きっと今も蛙を投げ込んできた後、俺や母の驚く姿を見てニヤついているはず・・・<br> きっと近くから俺を見ているはず・・・<br> 鳥肌が立った。<br> 警察早く来てくれ!<br> 心の中で叫んだ。<br> もうこの家は家では無い。<br> 『中年女』からすれば鳥籠のように、俺達の動きが丸見えなんだ。<br> 常に見られているんだと感じ出した。<br> <br> しばらくしてパトカーがやってきた。昨日とは違う警官二人だった。<br> 警官一人は、外壁や投げ込んで来たであろう道路を何やら調べ、<br> もう一人は俺と母に、「何か見なかったか?」「その時の状況は?」などなど、漠然とした事を何度も聞いて来た。<br> 最後に警官が、不安を煽るような事を言って来た。<br> 「たしか、昨日もいやがらせを受けているんですよね?<br> おそらく犯人は、すぐにでも同じような事をしてくる可能性が高いです」と。<br> 俺はたまらず、<br> 「あの呪いの女なんです!コートを着てる40歳ぐらいの女なんです!早く捕まえてください!」<br> と半泣きになって懇願した。<br> <br> <br> '''774 :『ハッピー・タッチ』 ◆XhRvhH3v3M:2006/05/07(日) 04:31:16 ID:UOWDTjZwO'''<br> すると警察官は、<br> 「さっきね、山を見てきたんだよ・・・<br> 犬の死体も、板に彫られたお友達の名前も、あと女の子の写真もあったよ。<br> 今からそれを調べて、必ず犯人捕まえるから!」<br> と言い、俺の肩をポンと叩くと、母の元へ行き何やら話していた。<br> 「主人に連絡を・・・」みたいな事を言われていたようだ。<br> 壁に付いた蛙の染み、及びその死体の写真を撮り、1時間程で警官達は帰って行った。<br> <br> しばらくして父親が帰宅した。まだ5時前だった。昨日の今日だから心配になったのだろう。<br> 夕食の準備をしている母も、夕刊を読んでいる父も無言だったが、どことなくソワソワしているのが分かった。<br> もちろん俺自身も、次にいつ『中年女』が来るのか不安で仕方なかった。<br> その日の晩飯は家族皆が無口で、只テレビの音だけが部屋に響いていた。<br> <br> そして夜11時過ぎ、皆で床に就いた。用心の為、一階の居間は電気を点けっぱなしにしておくことになった。<br> <br> <br> '''775 :『ハッピー・タッチ』 ◆XhRvhH3v3M:2006/05/07(日) 04:40:45 ID:UOWDTjZwO'''<br> その夜も家族揃って同じ部屋で寝た。<br> もちろんなかなか寝付けなかった。<br> <br> どれぐらい時間が過ぎただろう。<br> 突然玄関先で、「オラァー!!」とドスの効いた男の声とともに、<br> 「ア゛ー!ア゛ー!」と聞き覚えのある奇声、『中年女』の叫び声が聞こえた。<br> 俺達家族は皆飛び起き、父が慌てて玄関先に向かった。<br> 俺は母にギュッと抱き締められ、二人して寝室にいた。<br> カチャカチャ・・・ガラガラガラガラ!<br> 父が玄関の鍵を開け、戸を開ける音がした。<br> <br> <br> '''782 :『ハッピー・タッチ』 ◆XhRvhH3v3M:2006/05/07(日) 04:55:14 ID:UOWDTjZwO'''<br> 戸を開ける音と共に、<br> 「ア゛ー!!チキショー!ア゛ァー!!ア゛ァァァァ!」<br> 再び『中年女』の叫びが聞こえて来た。<br> 「大人しくしろ!」「オラ!暴れるな!」と、男の声もした。<br> この時、俺は「警官だ!警官に捕まったんだ!」と事態を把握した。<br> 中年女は奇声を上げ続けていた。<br> 俺はガクガク震え、母の腕の中から抜けれなかったが、<br> 父親が戻って来て、「犯人が捕まったんだ。お前が山で見た人かどうかを確認したいそうだが・・・大丈夫か?』と 尋ねてきた。<br> もちろん大丈夫ではなかったが、これで本当に全てが終わる。終わらせることが出来る!と自分に言い聞かせ、<br> 「・・・うん』と返事し、階段をゆっくりと降り、玄関先に向かった。<br> 玄関先から「オマエーっ!チクショー!オマエまで私を苦しめるのかー!」と凄い叫び声が聞こえ、足がすくんだが、<br> 父が俺の肩を抱き、二人の警官に取り押さえられた『中年女』の前に俺は立った。<br> <br> <br> '''791 :『ハッピー・タッチ』 ◆XhRvhH3v3M:2006/05/07(日) 05:10:12 ID:UOWDTjZwO'''<br> 俺は最初、恐怖の余り、自分の足元しか見れなかったが、<br> 父に肩を軽く叩かれ、ゆっくりと視線を『中年女』に送った。<br> 両肩を二人の警官に固められ、地面に顎を擦りつけながら、『中年女』は俺を睨んでいた。<br> 相当暴れたらしく、髪は乱れ、目は血走り、野犬の様によだれを垂れていた。<br> 「オマエー!オマエー!どこまで私を苦しめるー!」<br> 訳のわからない事を『中年女』は叫び、ジタバタしていた。<br> それを取り押さえていた警官が、「間違いない?山にいたのはコイツだね?」と聞いてきた。<br> 俺は中年女の迫力に押され、声を出すことが出来ず、無言で頷いた。<br> 警官はすぐに手錠をはめ、「貴様!放火未遂現行犯だ!」と言った。<br> <br> 手錠をはめられた後も、ずっと奇声を発し暴れていたが、警官が二人掛かりでパトカーに連行した。<br> そして一人だけ警官がこちらに戻って来て、「事情を説明します」と話し出した。<br> <br> <br> '''802 :『ハッピー・タッチ』 ◆XhRvhH3v3M:2006/05/07(日) 05:27:36 ID:UOWDTjZwO'''<br> 警官「自宅前をパトロールしてると、玄関に人影が見えまして、<br> あの女なんですけど・・・しゃがみ込んで、ライターで火を付けていたんですよ。<br> 玄関先に古新聞置いてますよね?』<br> 母「いえ、置いてないですけど・・・?」<br> 警官『じゃあ、これもあの女が用意したんですかねー?」と指差した。<br> そこには新聞紙の束があった。確かに、うちがとっている新聞社の物では無かった。<br> 警官が「ん?」と何かに気付き、新聞紙の束の中から何かを取り出した。<br> 木の板。<br> それには『○○○焼死祈願』と、俺のフルネームが彫られていた。<br> 俺は全身に鳥肌が立った。やはり俺の名前を調べ上げていたんだ。<br> もし警察がパトロールしていなかったら・・・ と、少し気が遠くなった。<br> 母は泣きだし、俺を抱き締めて頭を撫で回してきた。<br> 警官はしばらく黙っていたが、<br> 「実はあの女・・・少し精神的に病んでまして・・・<br> ○○町にすんでいるんですけど、結構苦情・・・まぁ、同情の声というのもあるんですがねぇ・・・」<br> と、中年女の事を語りだした。<br> <br> <br> '''810 :『ハッピー・タッチ』 ◆XhRvhH3v3M:2006/05/07(日) 05:55:14 ID:UOWDTjZwO'''<br> 「あの女、1年前に交通事故で、主人と息子を亡くしてまして・・・<br> それ以来、情緒不安定と精神分裂症というか・・・まぁ近所との揉め事なども出てきだしましてね。<br> 山で発見された少女の写真で、あの女の特定は出来ていたんですよ。<br> 二年前の交通事故・・・あの少女が道路に飛び出してきて、ハンドルをきって壁に衝突。<br> それで主人と息子が亡くなったんですよ・・・<br> 飛び出した少女は無傷で助かったんですが・・・以来、あの少女の家にも散々嫌がらせをしているんですよ。<br> ただ事故が事故なだけに、少女の家からは被害届けはでてないんですが・・・<br> あの少女を相当怨んでいるんでしょうね・・・」<br> <br> 俺はその話を聞き、同情などは一切出来なかった。<br> むしろ『中年女』の執念深さがヒシヒシと伝わってきた。<br> 何よりも、警官も認める情緒不安定・精神分裂症。<br> これでは、すぐに釈放になるのではないか?<br> 釈放後、また『中年女』の存在に怯え生きていかなければならないのか?<br> 警官の話を聞き、安堵感よりも絶望感が心に広がった。<br> <br> <br> '''813 :『ハッピー・タッチ』 ◆XhRvhH3v3M:2006/05/07(日) 06:10:00 ID:UOWDTjZwO'''<br> それから5年。<br> 俺、慎、淳は、それぞれ違う高校に進んでいた。<br> 俺達はすっかり会うことも無くなり、それぞれ別の人生を歩んでいた。<br> もちろん、『中年女』事件は忘れることが出来ずにいたが、恐怖心はかなり薄れていた。<br> <br> そんな高一の冬休み、ひさしぶりに淳から電話が掛かってきた。<br> 『おう!ひさしぶり!』<br> そんな挨拶も程ほどに、<br> 『実は単車で事故ってさぁ・・・足と腰骨折って入院してんだよ』<br> 「え?!だっせーな!どこの病院よ?寂しいから見舞いに来いってか?」<br> 『まぁ、それもあるんだけどさぁ・・・<br> お前、『中年女』の事って覚えてる?事件の事じゃなくってさぁ・・・顔、覚えてる?』<br> 「何で?何だよ急に!」<br> 『毎晩、面会時間終わってから・・・変なババァが、俺の事を覗きに来るんだよ・・・ニヤつきながら』<br> <br> <br> '''889 :『ハッピー・タッチ』 ◆XhRvhH3v3M:2006/05/08(月) 04:07:08 ID:PxVIZDoHO'''<br> 淳の発した言葉を聞いたとたんに、『中年女』の顔を鮮明に思い出した。<br> 始めて出会った、あの夜の歯を食いしばった顔。<br> 下校時に出会った、いやらしいニヤついた顔。<br> 自宅玄関で見た、狂ったような叫び顔。<br> あれから忘れる努力をしていたが、決して忘れることの出来ないトラウマだった。<br> 俺は淳に、「何言ってんだよ?!もう忘れろ!ほんっとオメーって気が小せぇーなぁ?!」と答えた。<br> 自分自身にも言い聞かせるように。<br> 『そーだよな・・・いや、こーゆーとこって、妙に気が小さくなるんだよ!』<br> 「そーゆーとこ、変わってねーな!」と余裕を見せた。<br> 俺自身も、あの日のまま成長していないが。<br> <br> そして入院している病院を聞き、「近いうちにエロ本持って見舞いに行くよ!」と言い電話を切った。<br> 電話を切った瞬間、何故か胸騒ぎがした。<br> 『中年女』<br> 淳の言葉が、妙に気に掛かりだした。<br> <br> <br> '''890 :『ハッピー・タッチ』 ◆XhRvhH3v3M:2006/05/08(月) 04:12:16 ID:PxVIZDoHO'''<br> 電話を切った後、しばらく考えた。<br> まさか、今更『中年女』が現れるはずが無い・・・<br> それにあいつは捕まったはず・・・いや、釈放されたのか??<br> というか、今思えば俺達三人は、『中年女』に何をしたわけでも無い。<br> ただ、『中年女』の呪いの儀式を見てしまっただけなのに、こちらの払った代償はあまりにも大きい。<br> 偶然、夜の山で出会い、いきなり襲われた。<br> 俺達は何一つ『中年女』から奪っていない。それどころか、傷付けてもいない。<br> 『中年女』は俺達からハッピーとタッチを奪い、秘密基地を壊し、何より俺達三人に恐怖を植え付けた。<br> 『中年女』がいくら執念深いといっても、さすがにもう俺達に関わってくるとは思えない。<br> こんなことを思うのも何だが、怨むなら写真の少女にベクトルが向くはず!<br> 俺は強引に、俺自身を納得させた。<br> <br> <br> '''892 :『ハッピー・タッチ』 ◆XhRvhH3v3M:2006/05/08(月) 04:33:09 ID:PxVIZDoHO'''<br> 2日後、俺はバイトを休み、本屋でエロ本を3冊買ってから、淳の入院している病院に向かった。<br> 久しぶりに淳に会うというドキドキ感と、淳が電話で言っていた事に対するドキドキ感で、複雑な心境だった。<br> <br> 病院に着いたのは昼過ぎだった。<br> 淳の病室は三階。俺は淳のネームプレートを探し出した。<br> 303号室の六人部屋に淳の名前があった。<br> 一番奥、窓側の向かって左手に淳の姿が見えた。<br> 「よう!淳、久しぶり!」<br> 「おう!まぢひさしぶりやなぁ!」<br> 思ったより全然元気な淳を見て少し安心した。<br> 約束のエロ本を渡すと、淳は新しい玩具を与えられた子供の如く喜んだ。<br> そして他愛も無い話を色々した。<br> 淳といると、小学生の頃に戻ったようでとても楽しかった。無邪気に笑えた。<br> <br> あっという間に時間は経ち、面会終了時間が近づいてきた。<br> 「んぢゃ、もうそろそろ帰・・・」と俺が言いかけると、<br> 「実はさぁ、電話でも言ったんだけど」と淳が、真顔で何かを言いかけた。<br> <br> <br> '''893 :『ハッピー・タッチ』 ◆XhRvhH3v3M:2006/05/08(月) 04:44:17 ID:PxVIZDoHO'''<br> 「中年女の事だろ?」と俺は言った。<br> すると淳は、<br> 「気のせいだとは思うんだけど・・・いつもこの時間に来るオバさんがいてさぁ・・・<br> 何かこう・・・引っ掛かるっつーか・・・」<br> 俺は「だから気のせいだって!ビクビクすんなよ!」と強気な発言をした。<br> すると淳は少しカチンと来たのか、<br> 「だから、勘違いかもしんねーっつってんぢゃん!ビビりで悪かったな!」<br> 空気が重くなった。<br> 俺は空気を読み、淳に謝ろうとした。<br> そのとき、<br> ガラガラガラ・・・<br> 廊下に、台車のタイヤ音が響いた。<br> 淳が「来た・・・」とつぶやく。<br> 俺は視線を部屋の入口に向けた。<br> ガラガラガラ<br> 台車は扉の前に止まったようだ。<br> そして、扉が開いた。<br> そこには、上下紺色の作業着を着たオバさんが居た。<br> 俺は「何だよ!脅かすなよ!ゴミ回収のオバさんじゃねーか」と、少し胸を撫で降ろした。<br> そのオバさんは、患者個人個人のごみ箱のゴミを回収しだし、最後に淳のベットに近づいてきた。<br> 淳が小声で「見てくれよ!」<br> 俺はそのオバさんの顔をチラッと見た。<br> <br> <br> '''894 :『ハッピー・タッチ』 ◆XhRvhH3v3M:2006/05/08(月) 04:49:40 ID:PxVIZDoHO'''<br> 「・・・!」<br> 俺は息を飲んだ。<br> 似ている・・・いや、『中年女』なのか?<br> 俺は目が点になり、しばらくその人を眺めていると、<br> そのオバさんはこちらを向き、ペコリと頭を下げて部屋を出て行った。<br> 淳が「どう?やっぱ違うか?!俺ってビビりすぎ?」と聞いてきた。<br> 俺は「全然ちげーよ!ただの掃除オバさんぢゃん!」と答えた。<br> いや、しかし似ていた。他人の空似なのか・・・?<br> <br> <br>
編集内容の要約:
Wikiminatiへの投稿はすべて、クリエイティブ・コモンズ 表示-継承 (詳細は
Wikiminati:著作権
を参照)のもとで公開したと見なされることにご注意ください。 自分が書いたものが他の人に容赦なく編集され、自由に配布されるのを望まない場合は、ここに投稿しないでください。
また、投稿するのは、自分で書いたものか、パブリック ドメインまたはそれに類するフリーな資料からの複製であることを約束してください。
著作権保護されている作品は、許諾なしに投稿しないでください!
編集を中止
編集の仕方
(新しいウィンドウで開きます)